特別養子縁組とその周辺について。
1 普通養子縁組との違い
特別養子縁組は、虐待や経済的な事情等で実親による養育が困難な子どもを救済する制度。
普通養子縁組との最大の相違は、特別養子は実親らとの親族関係が無くなること(ただし親族関係が無くなっても近親婚禁止の規定は依然適用される)。これに対して、普通養子は親族関係が無くならない結果、実親の相続権も養親の相続権も有する。
1988年から始まった比較的新しい制度(民法817条の2から817条の11まで)。
2 菊田医師事件(1973年)
特別養子縁組の制度を民法に導入するきっかけになったとされる事件。
宮城県石巻市の産婦人科医である菊田昇は、人工中絶によって乳児の生命を絶つことに疑問を抱いていた。そこで、中絶手術を求める女性を思いとどまらせ、地元紙に養親を求める広告を掲載するなどして子に恵まれない夫婦に養子をあっせんしていた。その数は100人以上とされる。
しかし、当時特別養子縁組の制度がなかったため、菊田医師は、養親が養子を実子のように育てることができるよう虚偽の出生証明書を作成していた。
これが毎日新聞の取材により報道された結果、菊田医師は医師法違反で告発され医療停止の行政処分などを受ける。
一方で、法律に違反しながらも多くの乳児の命を守った菊田医師の行為は議論を呼び、養子の利益を保護しつつ養子を実子として育てたいと考える養親の要望にも応える制度が必要であるとの機運が高まる。
その後、1987年にようやく特別養子縁組を導入する民法改正法案が可決され、翌1988年から制度開始。
【菊田医師_赤ちゃんあっせん事件_菊田昇_驚きももの木20世紀】
3 制度の概要
(1)養子は養親の子となると同時に実親らとの親族関係が無くなる(民法817条の2第1項)。ただし、近親婚を禁止する規定は例外的に実親の親族との間でも適用される。
(2)養子縁組できるのは、子の年齢が6歳になるまで。ただし、6歳未満から事実上養育していたと認められた場合は8歳未満まで可能(民法817条の5)。なお、2020年4月から対象年齢が拡大される。
(3)養親は、配偶者のある者でなければならない。
(4)特別養子縁組の離縁は、①養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること及び②実親が相当の監護をすることができることの2要件を満たしたうえで、裁判所が養子の利益のために特に必要があると認めた場合にのみ可能(民法817条の10)。