昭和天皇の危篤と「自粛」

昭和の日ということで雑感を書きます。

今日は昭和天皇の誕生日です。
したがって、元々は天皇誕生日であったわけですが、昭和天皇が崩じた後いったん「みどりの日」になって、その後に「昭和の日」になったという変遷を経ています。

さて、近時、例のウイルスに絡んで「自粛」という言葉をよく目にします。
自粛とは、今Google先生に訊いたところ、「自分から進んで、行いや態度を改めて、つつしむこと」と返ってきました。
自粛を要請する、という言葉もよく目にしますが、「要請」とは、Google先生によると「必要な事が実現するように、願い出て求めること」であるということです。

なんだか語義として矛盾しているような気がしてなりません。
お願いされてつつしむなら、それは「自分から進んで」という自粛の語義に当てはまらないのではないか、ということです。

公園で子どもと遊ぶ人々などに投げかけられる「自粛しろ!」という命令的なものの言い方は、たいへんな矛盾をはらんでいると思います。
命令までいかなくても、みんなにあわせて自粛したほうがいいのかな?という重々しい空気が国民を支配するわけで、そうなるとやっぱり、本来の意味での「自粛」ではない気もします。
とはいえ、(本来の意味ではないけれども)国民が行動を制限するという結果は生まれているわけですから、為政者や従順な国民の間で呼びかけられている「自粛要請」の効果がそれなりに生じていることは間違いありません。

ところで、国民的な自粛があった出来事は過去にもあり、東日本大震災の後も不謹慎厨と蔑まれる人々が増殖したことを記憶しています。

さらに遡ると、昭和天皇が危篤状態になって以降の強烈な自粛ムードがありました。
昭和の日ということでふと思い出した次第です。
ウイルスでもなんでもないので個人が外出を慎んだりするわけでないのですが、コチラのほうがウイルス対策のような大義名分がない分、より純粋な意味での自粛と言えるかもしれません。
自粛の具体的な内容は皆さまで調べてみてください。
イベントの中止などだけではなく外出時の派手な服装の自粛とかいろいろあってなかなか興味深いです。

このときの国内の自粛の状況に関する丸山眞男の言葉を引用して、今日の雑感の結びに代えたいと思います。

大正天皇の時と比較した丸山の言葉はすごく参考になります。
短絡的にいろんなことを戦前と結びつける思考には必ずしも賛成ではないのですが、共通の要素が今も社会に存在するとともに、昭和天皇の時はむしろ戦前以上の部分もあったという指摘はとても参考になります。

自粛ということにしておけば、それは「自分から進んで」ということになります。
悲惨な結果が起こってもそれはみんなが自分から進んでやったことであり悲惨な結果の根本原因は雲散霧消する、という非常に便利な物事の解決法であります。

まあ戦前との対比はしばしば言われてることなんですけど、できるだけ記憶に焼きつけられるようここにも残しておきます。
以下、丸山の言葉です。

(昭和天皇の重病化を受けた日本国内の状況に関して)
「僕は自粛の全体主義と言うんだけれど、その自粛の全体主義をどう理解したらいいのか、ということですね。僕の意見を言う前に、僕の記憶を言いますと、大正天皇の時はほとんど記事にならない。‥それが今度はなんでも発表してしまう、ある意味では新しい現象。決していい意味じゃないですよ。情報社会と結びついた天皇制、つまり情報社会の特徴を非常によく表している。‥情報社会と結びついて、しかしやっぱり天皇制のあれをひきずっているという、そういう二重構造であって、単なる戦前の天皇制ではないんですね。全部ニュースになる、そこに何となくみんなが集中する、地方のお祭りまでやってはいけないと。情報社会と結びついた自粛の全体主義と言うのは、ちょっと戦前以上でしょう。例えばどこどこでお祭りがあったとなるとそれが広がる。そういうことがなければ、つまり地方のオートノミーが保たれていれば、各々でやるわけです。ところが、なまじっかナショナルなニュースとして広がるからこそ、自粛しようということになるわけ。情報天皇制というのかな、そういうもとでの全体主義。…」

(「東京でもそうでしょうけれど、京都でも、秋の有名な祭、行事もほとんど中止でした。」との発言を受けて)
「それを誰が言い出して、どういうプロセスでそうなるか、それが分からないんです。それが[満州事変以後の一五年]戦争と非常によく似ている。誰が戦争をここまで拡大し、誰の命令でああいうふうになったのか、ついに分からないわけ。なんとなくそうなっちゃった。雰囲気でそうなっちゃう。僕は戦争について、雰囲気の支配と言ったことがあるんですけれど、同じなんだな、今度のも。…」

(引用は以下のページを利用させていただきました。http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/maruyama/hatsugen/hatsugen4-3/hatsugen4-3-1.html)

タイトルとURLをコピーしました