基本統計量の整理

拒絶反応が出やすい記号は使わないで、投資における「リターン」「リスク」「2証券の相関」に関する5つの基本統計量を思いつくまま整理してみます。

1 収益率の期待値(R・単位%)
 「各状況の収益率」を各状況が生じる確率で加重平均したもの

2 収益率の分散(σ^2)
 「各状況の収益率-収益率の期待値」の2乗を各状況が生じる確率で加重平均したもの
 ★ 偏差の2乗の加重平均。「各状況の収益率-収益率の期待値」『偏差』という
 ★ 偏差を2乗する理由:そのまま加重平均するとゼロになってしまうから
 ★ 確率で加重平均することから、分散は『偏差の2乗の期待値』である

3 収益率の標準偏差(σ(シグマ:英語のs)・単位%)
 分散の平方根をとったもの
 ★ 期待値と単位を揃えるために平方根をとる
 ★ モダンポートフォリオ理論における「リスク」のこと

4 2証券の共分散(Cov)
 「A証券の各状況の収益率-収益率の期待値」×「B証券の各状況の収益率-収益率の期待値」を各状況が生じる確率で加重平均したもの
 ★ 分散の2証券バージョン。いきなり計算する場合は2証券の収益率の期待値を出しておかないといけないためまあまあ大変
 ★ 2証券の偏差の積の加重平均。マイナスなら2証券は逆の値動きをする傾向にある
 ★ 無相関な2証券の場合プラスマイナスが打ち消し合ってゼロになる。また、ひとつの証券の収益率が定数の場合もゼロになる(これらの場合は相関係数もゼロ)
 ★ 確率で加重平均することから、共分散は『Aの偏差✕Bの偏差の期待値』である

5 2証券の相関係数(ρ(ロー:英語のr))
 共分散を「A証券の標準偏差」×「B証券の標準偏差」で割ったもの
 ★ 共分散=標準偏差✕標準偏差✕相関係数
 ★ 単位を揃え割合で考えるため割り算している。割合なので-1と+1の間の値をとる(-1:負の完全相関⇔0:無相関⇔+1:正の完全相関)
 ★ 数学的な説明は結構難しい(コーシーシュワルツの方程式による証明やベクトルの内積等の幾何的な説明)

【補足1】ポートフォリオの分散
 A証券とB証券でポートフォリオをつくったとして、この「リスク」を求めるために使う式です。
 導くのに時間がかかるため記憶してないとだぶん無理です。また、この式を使う問題には、相関係数が簡単な数字になる等の何らかの配慮が含まれていることがあります。

 ポートフォリオのリターンの分散(標準偏差^2)=
  (Aの投資比率)^2✕Aの分散+
  2✕(Aの投資比率)(Bの投資比率)✕共分散+
  (Bの投資比率)^2✕Bの分散
  =
  (Aの投資比率)^2✕Aの標準偏差^2+
  2✕(Aの投資比率)(Bの投資比率)✕Aの標準偏差✕Bの標準偏差✕相関係数+
  (Bの投資比率)^2✕Bの標準偏差^2

  
【補足2】ベータ(β)
 市場の変動に対して資産のリターンがどれだけ連動して動くかを示したもの。
 以下の式は、A証券と市場リターンの相関係数を求めるときにも使えます。

 A証券のベータ=
  Aと市場リターンの共分散/市場リターンの分散
  =
  両者の相関係数✕(Aの標準偏差/市場リターンの標準偏差)

【補足3】トータルリスク
 「リスク」と言っていますがこれも分散の式です。
 なお、『市場期待リターンの標準偏差=市場のトータルリスク』ですので問題文の数字を上手に代入しましょう。

 A証券のトータルリスク(標準偏差^2)=
  Aの市場リスク(標準偏差^2)+Aの非市場リスク(標準偏差^2)
  =
  (A証券のベータ✕市場期待リターンの標準偏差)^2+Aの非市場リスク(標準偏差^2)

【補足4】2証券の市場リスクを使って2証券の相関係数を求める方法
 ベータが絡む計算で覚えておくとよいのが、2証券の共分散が2証券の市場リスクの積になるという以下の式。これも導くのは大変なので覚えておかないと無理でしょう。でも出題頻度は少なそう。
 
 2証券の共分散
  A証券のベータ✕B証券のベータ✕市場期待リターンの標準偏差^2
  =
  A証券のベータ✕市場期待リターンの標準偏差B証券のベータ✕市場期待リターンの標準偏差
  =
  A証券の市場リスクB証券の市場リスク
  
 この式を使うと2証券の相関係数が求められます(『2証券の相関係数=2証券の共分散÷(Aの標準偏差✕Bの標準偏差)』に代入する)。

【補足5】資本市場線・証券市場線
 両者は、縦軸横軸の項目が異なりますし、傾きの項目も異なります。
 ①資本市場線は無リスク資産を含む効率的なポートフォリオの期待リターンを描いたもので、②証券市場線はあらゆる資産のベータに対応した均衡期待収益率(市場の均衡状態)を描いたものです。後者はCAPMの式です。

(1)まず、①資本市場線の式です。
 
 ポートフォリオの期待リターン=
  リスクフリーレート+市場期待リターンのシャープレシオ✕ポートフォリオの標準偏差
  =
  リスクフリーレート+(市場期待リターン-リスクフリーレート)/市場期待リターンの標準偏差✕ポートフォリオの標準偏差
 
 縦軸:ポートフォリオの期待リターン
 横軸:ポートフォリオの標準偏差
 傾き:市場期待リターンのシャープレシオ
 となります。 
 『市場期待リターン-リスクフリーレート』は『市場リスクプレミアム』のことです。配当割引モデルの話題にも出てくることがあります。

(2)次に、②証券市場線の式です。

 あらゆる資産の均衡期待リターン=
  リスクフリーレート+市場リスクプレミアム✕ベータ
  =
  リスクフリーレート+(市場期待リターン-リスクフリーレート)✕ベータ

 縦軸:資産の期待リターン
 横軸:ベータ
 傾き:市場リスクプレミアム
 となります。
 市場が均衡していればあらゆる資産の収益率が証券市場線上に存在します。
 均衡していない場合、証券市場線より上側に位置すれば割安、下側は割高です。

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